買取ジャンル

買取ジャンル

スタッフブログ 買取日記

2024/12/13

宗教・民俗学等の専門書買取【1,520点 145,000円】

今回は主に仏教関連の宗教書や哲学書を中心に、民俗学などの専門書も多数買取りさせていただきました。ここで民俗学と書いたジャンルの内訳ですが、民間信仰やその祭祀の具体的手段としての占星術、儀礼を記録し研究した本なども含まれており、広い意味で捉えるのならこちらも宗教関連書籍とも言えるような内容のものが多かったです。

大量案件歓迎です

第一文目の「多数買取り」ですが、どのくらい多数だったかというと具体的にはダンボール箱数に84箱分です!

そして、タイトルにある「1,520点」はおおよその冊数です。どういうことかと言いますと、例えば「〇〇叢書全15冊揃」などのシリーズものは15冊で1点としてカウントしておりますので、実際の冊数とは異なっているのです。それらを正確に冊数に直すならば、おそらく1,800冊近くはあったのではないでしょうか。箱に詰めていただくだけでも大仕事だったのではないかと思います。改めて、この度は当店を選んでいただき誠にありがとうございました!

当店はこのような大量案件も大歓迎です。たくさんの本をお売りいただくお客様に「あのうすごくたくさんあるんですけど良いですか?」と申し訳無さそうに尋ねられることがよくありますが、むしろ喜んでお引き受けいたします。通常より若干査定にお時間いただくことにはなるかも知れませんが、一冊一冊丁寧に査定させていただきますので安心してお任せください。

大河ドラマが終わる季節ですね

突然ですが、年末が近いですね。大河ドラマ「光る君へ」もいよいよ今週末に最終回を迎えます。私はといえば、とりあえず録画しておいて時々視聴するくらいのライトファンでしたが、ファーストサマーウイカさん演じる清少納言が『枕草子』を書き始めるエピソードなどにはグッとくるものがありました。

むかーしの話になりますが、橋本 治の『桃尻語訳 枕草子』を原案とした「まんがで読む枕草子」という教養番組がNHKで放送されておりまして、当時小学生の私は齧りつきでその番組を観ていたものです。そこで紹介されていた『枕草子』で描かれた宮中生活はかしましくて、華やかで、活気あるもので、まさに平安に花開いた絢爛たる貴族文化のイメージそのものでした。

ところが、実はあの作品はたった一人になってしまった中宮様を喜ばせるために書かれた「在りし日の宮中」を描いたものだったのだと思うと、もう切なくて

紫式部日記では「物知り顔した未熟者」的な批判的な描かれ方をしている鼻持ちならないイメージの清少納言ですが、ドラマを通して主人に対する一途な忠誠心から好印象に変わったという方も結構いらっしゃるのではないでしょうか?

 陰陽師・安倍晴明という男

さて、今回の大河ドラマの中心人物は紫式部(まひろ)と藤原道長であるわけですが、上記の清少納言をはじめ歴史的な有名人が多数登場するので、源氏物語ファン以外も惹きつけられる要素がたくさんあったのではないかと思います。

その有名人の1人にユースケ・サンタマリアさん扮する安倍晴明がいます。

ドラマでは道長の父・藤原兼家の策謀を助け、呪詛などで人知を超えた力を発揮する怪しげな人物でしたね。しかし、それでも夢枕獏原作の映画『陰陽師』などで描かれたスーパー超能力者としての晴明像をすでに刷り込まれていた方にとっては、今期大河の晴明は充分に普通の人間っぽかったと言えるのではないでしょうか。

 暦の術、陰陽道

中国では星の運行や配置を観察・記録し、それをもとに暦を作成する天文学が発達しました。その暦によって季節のうつろいを把握することは農耕社会にとって欠かせないことでした。また、中国には古くから天(宇宙の秩序)が世界を統治する権力者を選ぶという「天命思想」が根強くあります。統治者たるものが天の意向を占いによって読み取ることで、自らの統治の正当性を示したのです。

この星の運行の観測(=天文学)と占星術、そしてその背景にある思想が一体となって体系化されたのが星辰学です。この思想は遣隋使や遣唐使を通じて日本に入った後、仏教や日本独自の神道と融合することで陰陽道が形作られていきました。

このように、もともと陰陽道の源泉である星辰学には、権力者が世を統治するのは天の負託であることを示すために発達したという背景もあるため、日本の陰陽道が珍重されたのも朝廷権力の庇護のもとでした。

陰陽道でも天文学の知識に基づき暦を作成しました。この暦により特定の方角や時間の吉兆を知ることができるとされ、年中行事や重要なイベント(引っ越しや戦争なども)もこの暦の上で適切な時期を選んで執り行われるようになりました。また、現在も残る二十四節気などは大地のエネルギーの切り替わりの時期とされると同時に農耕のタイミングをはかるためにも不可欠な指標だったため、当時の暦の重要性はとても大きなものでした。

その陰陽道の使い手である安倍晴明は、式神を飛ばして悪霊をギッタギタにやっつけるスーパー超能力者・・・ではなく、卓越した暦の知識人であり読み手だったのです。

晴明、秘伝の書?

前置きが長くなりましたが、ここでやっと今回の本の紹介です。

『安倍晴明占術大全: 『簠簋内伝金烏玉兎集』現代語訳総解説 』藤巻 一保 、2000、学研プラス

タイトルにある『簠簋内伝金烏玉兎集』ですが、正式名称は「三国相伝陰陽輨轄簠簋内伝金烏玉兎集」といい、読みは「さんごくそうでんいんようかんかつほきないでんきんうぎょくとしゅう」です。早口言葉達人も涙目の長いタイトルですね。本書では短く『簠簋内伝』としていますので、以降本稿ではそちらに呼称を合わせます。

 

…それにしても見慣れない漢字がありますので、それぞれの言葉の説明を少しいたしましょう。

「簠簋(ほき)」は古代中国の神祭りの祭器で、簠は外側が大地を意味する四角で内側が天を意味する円形の祭器、簋はそれとは逆の、外側が円形で内側が四角の祭器をいう。」(本書「序 (晴明朝臣入唐伝)について」より引用。よみがなは筆者による。)

だ、そうです。続いて「金烏」と「玉兎」の部分ですが、「金烏」は太陽に住むと言われる金色の三本足の烏のこと、「玉兎」は月に住むという兎ですから、それぞれ太陽と月のメタファーということになります。(よく見ると本書の表紙にそれぞれの絵が描かれています。)

「陰陽」という言葉からも連想される通り、陰陽道では異なる2つの気の混ざり合いから万物が生まれるという発想をするため、対となる「簠簋」「金烏と玉兎」を冠したタイトル全体で陰陽道の秘伝書であるということが表されています。

この『簠簋内伝』は安倍晴明が編纂したと伝えられてきました(詳細はのちほど。)

 

ここで本書の目次をちらり。

本書目次。クリックすると拡大します。

こちらをご覧になるとお分かりかと思いますが、暦の卓越した使い手だった晴明が書いた本ですから暦注(暦に記載されている日時,方角の吉凶禍福に関する事項のこと)についての記述で埋め尽くされています。ここまでの文章を読んできた方なら当たり前と思われるかも知れませんが、スーパー超能力者としての晴明像だけしか頭にないと、もっと黒魔術的なナニかが書かれているのではないかと期待されるのではないでしょうか?

著者の藤巻氏が本書を描いた理由はまさにそこにあると言えます。

「晴明の呪術の背景にあるのは、まさにこの暦なのだ」

「けれども、今日の晴明ブームの中では、暦のもつ重要性が、すっぽり脱落している」

「暦の秘密を握る者としての晴明。その晴明の秘密の核と見なされてきた『簠簋内伝』を紹介したい」–これが本書出版の動機である。

(ともに本書「はじめに」より引用)

※なお、「本書は「天文司郎安倍博士(吉備后胤)晴明朝臣」の撰述書として伝承されてきた『三国相伝陰陽輨轄簠簋内伝金烏玉兎集』の序、および一~四巻までの全訳」(本書「序(晴明朝臣入唐伝)について」より引用)を掲載しています。

そのまま鵜呑みにしてはいけない

とはいえ、では『簠簋内伝』に記載されていることが星辰学や陰陽道が元来立っていたところの科学的、天文学的知見に則っているのか?というと、そうとは言えません

先ほどちらっと書きましたが、『簠簋内伝』は安倍晴明が編纂したと伝わってきたものの、現在その説はほぼ否定されています。というのも、『簠簋内伝』には10を超える写本が存在しており、写本を製作する過程で晴明の偉才ぶりがだいぶん拡大・強調され、むしろ『簠簋内伝』の晴明像が現在のスーパー超能力者の土台となっているとすら言えるのです。

例えば、本書の「序 晴明朝臣入唐伝」の訳を読んでいると、「妻とその不倫相手である弟子との裏切りに遭い首を切り落されたけれども、師である高僧の力により蘇った晴明の話」が出てきます。伝説的な人物というのは死んでから生き返るというのが洋の東西を問わぬお決まりパターンなのでしょうか。しかも、晴明の場合は肉体が朽ちて骨になったところからの復活劇が描かれており、さらにパンチが効いています。

復活した晴明は自分を嵌めた弟子と妻を誅します。そして「女人には心を許すな」と言い残した、と。え?教訓はそこ?弟子についてはどうなの?と突っ込みたくなりますが我慢。

 

晴明が使役したという十二神将(十二天将)図

さらに本書の「あとがき」には編集の最終段階で5回も6回も同じ場所のデータが消えたという“怪談”が。

本書ではそういった『簠簋内伝』成立過程についても解説が加えられているため、いわゆるトンデモ本とは一線を画していますが、あくまで本書の主目的は「暦の使い手」たる陰陽師・晴明に迫ることである、と念のため最後に繰り返して今回は締めくくりとさせていただきます。

今回の高額買取商品

冒頭にも書きましたが非常に本が多かったため、こちらにリストアップできたのは全体の10分の1ほどの本から250円以上の買取額が付けられたもののみとなります。

今回は触れられませんでしたが、仏教誕生の背景ともなるインド哲学における輪廻思想の展開に関する論文集(『輪廻の論証~』)など難しくも興味深いものが沢山ございました。 

お売りいただいた本は次のお客様の元に届くまで当店で大事に保管させていただきます。

『童謡詩人金子みすゞの生涯』『神楽新考』『宿曜占法: 密教占星術』『日本仏教思想史論考』『輪廻の論証: 仏教論理学派による唯物論批判』『地獄の世界』『暦と時の事典: 日本の暦法と時法』『ジ・オウム: サブカルチャーとオウム真理教』『安倍晴明占術大全: 『簠簋内伝金烏玉兎集』現代語訳総解説』『星の信仰: 妙見・虚空蔵』『御幣 神と仏のすがた』

クリックすると拡大表示されます。

(買取額は市場の需要と供給のバランスにより変動するため、現在とは異なる可能性がございます上記は2024.11.23時点の金額です。)

そういえば、今回とは別の買取案件でしたが、今年は大河の影響もあってか平安文化に関連する書籍も人気が高く比較的良い値段でお買取できる例が多かったです。(下の画像の本など)

古本の値段はその時々の話題性にも左右されるため、「少しでも自分の本を高く評価してもらいたい!」という方はそういった流行をキャッチして売るというのも1つのコツです。

今回も良書をたくさんお売りいただき、誠にありがとうございました!

 

スタッフN

※下の画像の書籍は送っていただいた本のほんの一部です。

 

【買取品はAmazonの他、以下のサイトで再販いたします。】

直営販売 HP 

日本の古本屋

【「一冊一善」寄付買取にご協力ください。】

tetoe(テトテ)

買取依頼したい方はこちらから!