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スタッフブログ 買取日記

2024/10/30

経済・思想などの専門書買取【108冊 13,538円】

今回はマルクス主義や資本主義など政治経済に通じる思想や、和歌や国文学など日本の文化についての書籍を中心に買取させていただきました。

マルクス主義の流行

2000年代初頭、住宅バブルの中で利益を追求するため、アメリカでは各銀行が返済能力の低い層(サブプライム層)に積極的に高利子の住宅ローンを販売しました。

返済能力が低いわけですから、当然、簡単に焦げ付きを起こします。それが表面化して金融市場に大混乱をもたらしたのが、2007年のいわゆるサブプライムローン問題。それを端緒として翌年にはリーマンショックが発生、金融市場全体が不安定になり、結果として世界的な経済不況が発生しました。

誰もがこうなることは簡単に予測できたはず…と思うのですが、経済的な利益を純粋に追い求める資本主義という体制下ではむしろ不可避なことであったのでしょう。それゆえ、これらの事象は「資本主義システムは本当に持続可能なのか?」という疑問を多くの人に抱かせるきっかけとなりました。 

そして、その際に再注目されたのがマルクスの著作『資本論』でした。彼の著作の中では資本主義自体が内在的に持つ矛盾、経済を不安定にさせる要素が鋭く指摘されています。また、現在も続く労動者への搾取や経済的不平等(富の偏在)、格差拡大などが、マルクス主義的な経済批判を通して議論を活発化させたことも再評価につながりました。 

これらの盛り上がりは一時期に比べれば少し落ち着いてきたように思いますが、そこは少し前に売れまくった本が古本となって流れてくるわが職場。現在、マルクスに関する書籍がほぼ毎日のように眼の前を通り過ぎていきます。

これから世界はどうなるべきか?

そんな流れもあり、今回の買取品にもマルクス的な視点を取り入れた“資本主義社会の限界”に触れた書籍が多く含まれていました。

確かに、資本主義的な成長を前提とした経済・社会運営ではそのうち成長も頭打ちになり、資源も使い込まれて枯渇するのは時間の問題でしょう。

しかし。「では、資本主義を脱却した新たな社会的枠組みは、具体的にどのようなものになるのか?」と問われると、誰もそれには正確に答えることはできないのではないでしょうか?

これまでどっぷり資本主義的な世界に浸った後で、その影響を完全に免れた社会を構築することは現実的ではないと思うのです。(と、自分の考えのように書いていますが、最近プライベートで読んだ『ポスト資本主義の欲望』(マーク・フィッシャー , マット・コフーン , 大橋完太郎 訳、2022、左右社)の受け売りです。)

誰からも画期的なアイディアが出ない中、「こうすれば良いんじゃない?」という意見があったら、それに飛びつきたくなるのが人情というものです。

2050年の世界の「取扱説明書」

そこで気になった本がこちらです。

『世界の取扱説明書 ―理解する/予測する/行動する/保護する』ジャック・アタリ (著), 林 昌宏 (翻訳),2023,プレジデント社

こちらの本は2023年にフランスで刊行された原著『Le Monde, modes d’emploi: Comprendre, prévoir, agir, protéger 』の邦訳で、大筋は今から30年後(西暦2050年)の世界がどうなっているか、今抱えている世界的危機から逃れるにはどうしたら良いかを、それまでの歴史的変遷を踏まえた(理解する)上で、予測し、今すぐアクションを起こす(本書の中では「急旋回」と表現される=行動する)必要性を説く内容となっています。

著者のジャック・アタリは1943年、フランス領土だったアルジェリア生まれ。1972年にパリ第9大学にて経済学で博士号を取得、1981年~91年はミッテラン仏大統領の特別顧問として政治の中枢で活躍しました。ミッテラン後のサルコジ、オランド、マクロンらの仏大統領にも政策を提言するなど彼の影響力は大きく、現在も欧州を代表する知性の一角として精力的に活動を続行けています。本書が刊行された年にちょうど80歳を迎えましたが、たびたび来日もし、NHKでも特集番組や日本語でのWEB特集記事でも見かけることの多い、我々にとってもお馴染み感のある人物です(本書でも日本語版への序文が巻頭に掲載されており、彼の日本びいきが伺えます。)

 アタリ氏はその知見を活かして多くの書物を執筆していますが、2016年の『2030年ジャック・アタリの未来予測』ではコロナ禍とウクライナ戦争を見事に予見し、注目を集めました。その彼が予測する未来の「世界の取扱説明書」を開陳しようというのですから、どんな内容が書かれているのか非常に気になりますよね。

人類は歴史から学ぶ、のか?

さて、上述したようにアタリ氏は経済学で博士号をとってはいるものの、経済学的な市場予想を万能とはみなしておらず、むしろ懐疑的です(p11ではノーベル経済学賞を「偽のノーベル賞」と皮肉っています。)。実際に、サブプライム問題だって経済学では止められませんでしたしね…。

では、何をもって世界の未来を予測するのか?アタリ氏はそれは「歴史」であるとします。

「世界を形成するのは「慣行」と、はるかに広範な科学である「歴史」だ。」(p12より引用)

 

そのため、本書では第一章で第二章以降でも使用する概念や言葉の説明や定義付けをし、第二章では人間の築いた社会制度の変遷を「儀礼秩序」「帝国秩序」、そして、現在にまで至る「商秩序」の3つの時代に区分します。

 この第二章の「商秩序」の時代に現れた9つの世界の経済の中心地(本書では「心臓」と表現)と、その地の社会体制(同じく「形態」と表現)の発展と衰退の要因を描写していき、そこに共通する9つの法則(どういったときに「心臓」が疲弊するのか、権力を持つのか等)を見出します。「歴史」を通じて予測するというのが本書の趣旨でもあるため、この章での歴史的変遷の説明にかなりのページ数が割かれています。

 ※本書に出てくる「分配」や「付加価値」「資本」「自然」などはマルクス的なものをベースとしつつ、彼独自の使い方もしているので注意が必要です。また、「商秩序」という言葉に関しても彼自身が注意を促しておりますが、資本主義とは必ずしもイコールの概念ではありません。

次に、第三章では二章で挙げられた「心臓」と「形態」という彼自身の概念に沿って、現在(2023)の世界の様子を描写します。続く第四章では「商秩序の12の法則」として、第二・三章のまとめや、根拠を裏付けるデータの補足などがあります。

そしていよいよ、第五章で「2050年」という数字が出てきますが、多くの読者が予想する通り、そこには決して楽観視できない未来予測が展開されています。ここで語られるのは2050年の世界が、そして“「心臓」と「形態」が織りなす社会”がハマっているであろう「3つの袋小路」です。続く第六章では、それらの袋小路へと人類を追い詰める「3つの脅威」が挙げられています。この要約を見るだけでも人間社会の見通しは悲惨そうであると検討がつきますよね…。

 

…本書で紹介されているすべての「袋小路」や「脅威」の具体的内容を詳述することは紙幅も足りないためいたしません。ですが、本書のここまでの主張をかなり乱暴に要約するならば「このままの仕組みでは爆発的に増えた人口を支える食料もないし、気候変動ももっと大変なことになって人類は終わるよ」ということです。現在の世界経済を牽引する大国の権力も陰り、また気候災害や少子高齢化の影響により混迷する、と…。また、イノベーションも悪い方向に進み、脳に電子チップを埋め込むことで個人の思想が常に監視され、操作されるような恐ろしい事態まで危惧しています。アタリ氏の予想する最悪の世界像はジョージ・オーウェルの『1984』、あのディストピアのような世界のようだ、といえば伝わる方も多いでしょうか。

その兆しのようなデータを全編にわたり提示されるので、「このデータに正当性はあるのかしら?」とどこか冷めた感情が頭の片隅にある一方、「ああ、もうこれだけ証拠が揃っているのなら手遅れじゃん…」という大きな無力感に囚われます。

 「歴史」から学ぶ必要を訴えてはいますが、結局人類は「歴史」からは学ばず坂を転がり落ちるシナリオを辿るのです。著者いわく、「人類の自殺は30年後」(p227)です…。

今、何ができるのか?

この落ちまくった気分のところに本書クライマックスとして用意されているのが第七章の「急旋回」です。この章ではここまでで明らかにされた「法則」から予測される「袋小路」「脅威」を回避するために世界には何がなされることが必要かを提示し、最終章である「結論」章では、個人レベルで今、できるかことは何か?を述べて締めくくられています。

その主たる内容は本書を手にとって実際に読んでいただきたいので詳らかにはしませんが、著者自身も彼の案の実現可能性は非常に低いし、実行されること自体が困難であるし、現実的ではないものであると認めています。

私も「結局、資本主義に代わる形態ってどんななの?」「その案、誰が実行するの?」「それをやったら、もうある意味、全体主義なんじゃない?」「人口増加を抑える術については触れてなかったね…?」などなど・・・

ツッコミを入れたくなる部分がたくさんありました。しかしながら、本書を読み通した後では、そこまで実現可能性が低いアクションに賭けるしかない現状の真剣なヤバさを刷り込まれているため、ニヒリスティックに笑い飛ばすことができないのです。タイミングよく用意された著者からの言葉

「無頓着、軽率、先延ばしは、分析、見通し、決断、努力、一致団結よりも、しばらくの間は快適だからだ」(P226)

 も耳に痛く響きます。

やれることを、やる

本書を読み終わったからといって、いますぐ全地球的に良いことが何かできるわけではありません。

今朝のニュースを振り返ると、世界に目を向ければ世界の警察官の座から陥落するであろう本書中でも予言されているアメリカの大統領選挙のゆくえ、国内に目を向ければ自民党が先の選挙で少数与党となり政権運営のゆくえが大体的に報じられていました。これらについて、私達個人が今、流れを変える何かをすることができるでしょうか?…多くの人の思惑とは関係のないところで事態は進行するでしょう。

しかしながら、彼が本書の随所で繰り返し説くように、未来に起きることを予測し何ができるか最善策を検討、想定しておくことは必要であるし、最終章で指摘された「集団行動の責任を他者に押し付けてはいけない」(256)や「将来世代を害するな!」という言葉を肝に命じ、日常生活でそれを実践すること、実践するには何から始めれば良いか?を考えることからはじめていきたいなと思う読後でした。

 

今回の高額買取商品一覧

今回は300円以上の買取額が付いたものを一覧にしてあります。

クリックすると拡大表示されます。

(買取額は市場の需要と供給のバランスにより変動するため、現在とは異なる可能性がございます上記は2024.10.21時点の金額です。)

雑誌の買取も歓迎

以前の記事でも書きましたが、当店では専門性の高い雑誌の買取も行っております。

今回も「現代思想」の  2023年12月号『臨時増刊号 総特集◎平田篤胤』を買取いたしました。

雑誌とはいえ臨時増刊号、そして本体価格が3,000円(税込価格3,300円)ですからね…。立派な本です。内容も大変充実しています。

(クリックすると拡大します。民俗学、宗教学、歴史学など各分野のエキスパートたちが国学者であり思想家、医師でもあった知の巨人、平田篤胤像に迫る論考を寄稿しています。)

こういった本を「雑誌だから買取りません」なんてもったいない!

もう読まないものがご自宅にありましたら、是非、当店にお売りください。

また、2024年10月現在、以下の建築専門誌・IT技術専門誌については特に買取歓迎です。※( )内は買取対象となる発行年です。

  • 新建築(2010年以降)
  • 新建築 住宅特集(2005年以降)
  • 商店建築(2015年以降)
  • a&u [建築と都市](2000年以降)
  • トランジスタ技術(2010年以降)
  • インターフェース

ただし、在庫過多などの理由により当店では買取をお断りしている雑誌もございます。詳細については以下のバナーのリンク先よりご確認ください。

その他、「本を送りたいけど段ボールはもらえる?」「集荷の手配はしてくれる?」(ちなみに、両方ともYESです!)など気になることがありましたら、「よくあるご質問」

を参照いただくか、お気軽に以下「お問い合わせフォーム」よりお問い合わせください。

皆様の買取のご依頼、おまちしております!

今回も良書をたくさんお売りいただき、誠にありがとうございました!

 

スタッフN

※下の画像の書籍は送っていただいた本のほんの一部です。

【買取品はAmazonの他、以下のサイトで再販いたします。】

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