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スタッフブログ 買取日記

2024/09/25

音楽・芸術関連書籍の買取【227冊 25,799円】

今回は音楽やダンスに関連する書籍を中心に、そういった芸術のあり方、芸術が創造されるプロセスについて論考した心理学書や哲学書に近いようなジャンルのものまで、幅広く230冊近くの本を買い取りいたしました。

「身体性」というキーワード

芸術というと、その精神性について論じるものが多いようなイメージがありますが、表現主体としての「身体」に注目した書籍も多かったように思います。

言語学界隈でも『言語と身体性』『ことばと身体』というような「身体」を冠した本が2010年以降くらいから盛んに発行されるようになったり、人工知能やロボティクスの分野でも「記号接地問題」(単語やフレーズなどの言語記号がどのようにして実際の意味や対象に結びつくのかという問題。人間はある概念と身体を通して得た感覚とを結びつけて記号の意味を理解するが、身体を持たないAIにはこれが可能か?というような形で論じられる。)が大きな話題となったりするなど、「認知と身体性」「創造と身体性」という言葉はここ10年ほどで重要ワードの1つになっているような気がします。

例えば、こちらの本。

『創造性はどこからくるか: 潜在処理,外的資源,身体性から考える (越境する認知科学 2)』日本認知科学会 (編集), 阿部 慶賀 (著)、2019,共立出版

『創造性はどこからくるか: 潜在処理,外的資源,身体性から考える (越境する認知科学 2)』日本認知科学会 (編集), 阿部 慶賀 (著)、2019,共立出版

などは、そのものズバリ、認知科学の知見から人間の創造性と身体性は切っても切り離せない関係にあるという最近の研究成果について述べた本です。

特に才能のある人のみが発揮すると思われがちな「創造性」ですが、創造的な何かといっても天才の頭の中だけでいきなり生み出されるものではありません。自分の外部にあるもの、そしてそれらとの関わり合い方、新しいアイディアが生まれるときの身体の状態なども考慮し、その中から「創造的な瞬間」がいかにして訪れるのかのメカニズムを考えます。

これらの外部要因はこの世界中の誰もがその身体の外に纏って生きているものです。ということは、身体を有する誰しもに「創造的な瞬間」はやって来うるということ。

このように全体的にポジティブなメッセージが、本書には詰め込まれています。

「インプロヴィゼーション」とは?

ところで、今回の買取品の中で初めて知った言葉があるので紹介いたします。それが見出しの「インプロヴィゼーション」なのですが…。

こちらの本のサブタイトルにも見ることができます。

『フリープレイ 人生と芸術におけるインプロヴィゼーション』スティーヴン・ナハマノヴィッチ 著, 若尾裕 訳,2014,フィルムアート社

『フリープレイ 人生と芸術におけるインプロヴィゼーション』スティーヴン・ナハマノヴィッチ 著, 若尾裕 訳,2014,フィルムアート社

私はこの言葉、初めて知ったのですが・・・。え?皆さんはご存知ですか?

上の画像の帯に思いっきり書いてありますが、即興、あるいは即興演奏 と訳すようですね。

即興、と聞いて真っ先に私の頭の中に浮かんできたものは演劇における即興劇です。台本なしで俳優により自発的に演じられる形式の劇で、結末がどこに向かうのか分からない展開の読めなさが魅力です。(今、試しに「即興劇」でググってみたら、wikipediaにも思いっきり「インプロヴィゼーション(improvisation)、インプロブ(improv)、インプロ(impro)とも呼ばれる。」と書いてありました…。世の中にはまだ知らないことがいっぱいです。)

また、ジャズの世界ではその即興演奏に大きなウェイトが置かれており、その場の自由で予測のつかない、故に新しい演奏を演者も聴衆も楽しむことが醍醐味とされています。

そして、絵画の世界でも即興性をその特徴とする画家が多くいます。例えば、前澤友作氏が所有したことで一時話題となったジャン=ミシェル・バスキア。27歳という若さで亡くなっているため、活動期間はわずか10年ほどしかなかったという彼ですが、驚異的なスピードで身体を動かしながら常に絵を生み出し、3,000点を超えるドローイングと1,000点以上の絵画作品を遺したと言われています。ほかにもジャクソン・ポロックの「ドリップ・ペインティング(絵の具を投げたり、垂らしたりする技法)」などが有名です。

どのような芸術的形式をとるのかは様々ですが、即興に身を委ねるからこそ、その表現者に内在するものが剥き出しのまま表出し、鑑賞する者が彼らと腹を割った対話をしているかのような充足感を得られる表現方法だと思います。…頭でっかちに考えていない、ときに未整理であるという分だけ抽象的で解釈が難解という向きもあるとは思いますが、それも芸術と向き合う際の楽しさですよね。

本書はインプロヴィゼーションという方法を通して表現者の内面や創造性のプロセスに迫り、その背後にあるもっともっと大きな問い、つまり、表現することとは何か?にヒントを与えるガイドブックとして書かれています。「創造性」も今回お売りいただいた本たちに通底するキーワードでした。

ダンスと人類学

ちなみに、もう一冊「インプロヴィゼーション」がタイトルに含まれる本がありました。こちらの…

『コンタクト・インプロヴィゼ-ション: 交感する身体 (ArtEdge)』シンシア・J. ノヴァック 著, 立木 アキ子/菊池 淳子 訳,2000,フィルムアート社

『コンタクト・インプロヴィゼーション: 交感する身体 (ArtEdge)』シンシア・J. ノヴァック 著, 立木 アキ子/菊池 淳子 訳,2000,フィルムアート社

は、1970年代にアメリカで誕生したダンスの一種=コンタクト・インプロヴィゼーションにそのターゲットを絞っています。やはり、その名のとおり即興性のあるダンスであることが特徴です。

ただ、このダンスは「何でも良いから即興で踊れば良い」というような薄い内容ではなく、そもそもの出発点が「もう一度、自分自身の身体を知的な観点から見直そう」という試みを背景としています。

このダンスが誕生した当時(1960年代から70年代)のアメリカは反戦運動、公民権運動の広がり、フェミニズムやジェンダーへの新たな視点の導入など、社会全体が既存のものから何か新しいものを求める、思想潮流のうねりの中にありました。その中で、具体的な態度として

  • 他者とぶつかり合うのではなく、重ね合わさることで相手を感じる・尊重する
  • 身体的自由や表現の多様性を認め合う
  • 従来の男女ペアに縛られないパートナーシップ

…などなどを尊重しようという考えが広がりを見せ始めます。

コンタクト・インプロヴィゼーションの動きでは、こういった思想を反映するかのような振り付け、動きが多用されているのです。紙面には人と人との交差が生み出す動きを捉えた写真が何枚か掲載されているので、「いかにもコンテンポラリーダンスに影響を与えたってカンジのダンス」(スタッフN談)という拙い説明だけではちょっと理解できないという方も、イメージが湧きやすいのではないでしょうか。

また、本書の著者はダンサーや振付師としても活躍した人物なのですが、その一方で人類学者としての一面も持っていました。上記のようなコンタクト・インプロヴィゼーション興隆の社会背景や、そこに至るまでの歴史なども下敷きとし、人類学的な視点も織り交ぜてダンス(や運動、身体)を分析している点がこの本の特徴であり面白いところです。

ダンスの他にもプロレスや合気道などスポーツも登場します。どのような文脈でどのように語られるのかは本書を手にとってからのお楽しみです。

 

今回の高額買取商品

今回は400円以上で買い取らせていただいた書籍を下の一覧にまとめています。

ご覧のように比較的新しい書籍から1990年代の書籍まで様々でした。当店では新刊書店には並ばないような古い本でも、読み継ぐ価値の高い専門書など買取を歓迎いたします。

また、洋書(英語で書かれたもの)も買取歓迎です!

そして、今回はありませんでしたが、音楽関連の書籍といえば楽譜!楽譜の買取もいたします。

ご自宅に眠っているものがございましたら、是非当店にお売りください。

クリックすると拡大表示されます。

(買取額は市場の需要と供給のバランスにより変動するため、現在とは異なる可能性がございます上記は2024.09.13時点の金額です。)

 

今回も良書をたくさんお売り頂き、誠にありがとうございました!

スタッフN

 

【買取った専門書はAmazonの他、以下のサイトで再販いたします。】

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