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スタッフブログ 買取日記

2024/09/19

歴史・社会学など書籍と図録買取【108冊 6,168円】

今回は歴史や民俗学、社会学に関連した専門書を買取いたしました。特に社会学関連では地域自治集団(自治会や町内会など)について地域コミュニティにおける意義を再考したものですとか、古い民家の調査など、「暮らしに密着したものの変遷を追う」系の書籍が多かったように思います。

毎回、気になる本が多すぎてどの本をご紹介しようか迷ってしまうのですが、今回はある図録をピックアップして紹介しながら、当店の買取についてアピールしていこうと思います。

三十六歌仙を中心に、歌仙絵の変遷を辿る

今回の買い取らせていただいた本の中で買取額が最も高くなったのは、こちら。

『図録 江戸の歌仙絵 絵本にみる王朝美の変容と創意 』2009、国文学研究資料館 

でした。

本書は2010年に国文学研究資料館(東京都立川市)にて開催された、同タイトルの特別展示会に際し発行された図録です。

この展示会では、平安時代の公卿で歌人でもあった藤原公任が撰んだ秀歌集『三十六人撰』に掲載された「三十六歌仙」を中心に、江戸時代に描かれた和歌の名人(歌仙)の絵=歌仙絵 にスポットを当て、その美の変遷(古代・中世から続く歌仙絵が江戸時代の文化背景を反映して、どのように変化したのか)を辿るとともに、江戸時代の独自の解釈・創意工夫が反映された作品が紹介されました。

展示された作品群のうち、アメリカのワシントンD.C.にあるスミソニアン博物館フリーア館に所蔵の作品は本邦初公開という貴重さながら、この展示会はなんと無料で入場できたようです。非常に太っ腹な企画ですね。

上は江戸時代中期(享保(1716年~)くらいから寛保(~1744年)くらいまで)を代表する浮世絵師、勝川 春章(かつかわ しゅんしょう)の描いた三十六歌仙の一人、皆様ご存知、世界三大美人の一人でもある小野小町像です。春章は役者絵でも人気がありましたが、その繊細なタッチの美人画でも高い評価を得ている絵師です。こちらの小野小町も多くの方が思い描く平安美人のはんなり感が良く出ていますね。

こちらの図録の面白いところは、こういった王朝文化の正統な系譜をそのまま継承するのではなく、上に書いたようにそこに江戸時代の俳諧文化や狂歌が合流し、庶民のうちに花開いた文化ならではの軽妙洒脱さが盛り込まれていく様子を辿れることです。

『図録 江戸の歌仙絵 絵本にみる王朝美の変容と創意 』

江戸庶民の洒落っ気と文化教養の高さ

個人的に特に面白いと思ったのは「五章 狂歌と当世化」の章です。

狂歌というのは、和歌の形式をもとに滑稽や皮肉を織り交ぜたもので、上述の勝川春章の時代の少し後に大流行しました。

みなさんの中にも松平定信による「寛政の改革」(1787年~ 1793)のあまりにも厳しい質素倹約っぷり(=清い水)に、その前の時代の賄賂や汚職にまみれた(濁っている)老中・田沼意次の時代を恋しんだ

白河の清きに魚の住みかねて もとの濁りの田沼恋しき

という狂歌があったことを社会科や日本史の教科書で習った方は多いのではないでしょうか?

さて、下はその第五章の章扉(左)と、その掲載元である『戯画 六々狂歌』が紹介されたページの一部(右)なのですが…

『図録 江戸の歌仙絵 絵本にみる王朝美の変容と創意 』

人物の横に「坂上是則」とあります。

坂上是則(さかのうえのこれのり)は平安時代の貴族で、上述の『三十六人撰』の「三十六歌仙」のうちの1人なのですが、特に次の二首の和歌が有名です。

まず、一首目が『小倉百人一首』に採用された

朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に ふれる白雪

(夜がほのかに明けるころの、明け方の月かと思うほどに、吉野の里には白雪が降り積もっている。)

で、次が『古今和歌集』に採用された

みよしのの 山の白雪 つもるらし ふるさとさむく なりまさるなり

(今夜は吉野の山には雪が積もっているだろう。 この古い奈良の都(ふるさと=故里、古都を指す)までも、寒さが増しているのだから。)

でしょう。ですが、どうも上の画像の人物の上に書かれた和歌は、そのどちらでもないようです。
ただ、書き出しが「みよしのの~」になっていることから、二首目の歌を改変したものだと思われます。

 

どう変えられているかと言われると、筆者(スタッフN)の読解力では、かろうじて「ふるさと寒く」が「ふところ寒く」になっていることが読み取れました(違っていたらすみません(汗)。崩し字にお詳しい方、是非、なんと書いてあるのか教えて下さい!)。

 

狂歌には、上の「田沼恋しき」のような当世の不満や皮肉を込めたものの他に「古典をもじって滑稽さを出す」という性格のものもあったようで、こちらはそのような作風の一例と言えそうです。しんしんと冷える古都の情景の静けさの中にある美しさ・寂しさにしんみり感じ入る余裕なんてない、「ふところ寒い」方がよっぽど一大事ではないか!という趣旨なのでしょうか。そう考えると、そえられた是則像の表情も「わびさび」どころではない、切羽詰まった感じに見えてきますね。

 

・・・しかし、よく考えてみると、この狂歌の面白みが分かるには
  • 元ネタになった有名な和歌についての教養がある
  • 元ネタをいじったことによる可笑しみを共有できる知的ユーモアがある
ことが求められるわけですよね。当時の江戸庶民の識字率の高さであるとか、教養の深さが垣間見えます。そして、それも天下泰平の世が続いたればこそと思うと、改めて「徳川家すごい…!」と思ったのでした。

 

きっと、この時代がなかったとしたら今の日本文化に潜むユーモアの質も、随分違ったのではないかと想像します。

ISBNのない本、買取ります

さて、いつもの通り前フリが長くなってしまいましたが、こういった図録にはISBNやバーコードがついていないことがほとんどです(「ISBNって何…?」という方はこちらの記事をご参照ください。)。

古書店さんによっては「ISBNやバーコードのついていない本は買取ません!」としているところもありますが、当店はISBNやバーコードのない本も喜んで買取いたします!

 

「暑さ寒さも彼岸まで」という言葉を無視するかのような暑い日々が続いていますが、そろそろ気温が下がってくるようですね。そうすると、来訪が実感されるのが“芸術の秋”ではないでしょうか? 美術展・博物館の特別展示などに足を運ぶ紳士淑女も多い季節です。図録をご購入される方も多いことでしょう。

でも、その図録、ご自宅の本棚に入り切りますか?もし、ご自宅にもう読まない図録がありましたら、整理して当店に売ってください。きっと、欲しい方が待っています。

 

なお、買い取らせていただいた図録の多くは当店の直営販売サイトなどで再販中です。

「気になる展覧会があったのに図録を買いそびれた」などありましたら、当店の販売サイトの在庫は要チェック!

幅広いジャンルのものを取り揃えております。

 

今回の高額買取商品

発行から30年くらいが経った古めの書籍が多くありましたので、経年並のシミやヤケ、若干の書込みなどがあるものもございましたが、全体的に大事に保管されていた書籍だということが伝わって参りました。

次の必要とされる方の手に渡るまで、当店で大切に管理・保管いたします。

『中世人の生活世界』『研究者のための資料写真の撮り方』『地域自治会の研究: 部落会・町内会・自治会の展開過程 (関西学院大学研究叢書)』『町内会と地域集団 (都市社会学研究叢書 2)』『民家のみかた調べかた』『図録 江戸の歌仙絵 絵本にみる王朝美の変容と創意』

クリックすると拡大表示されます。

(買取額は市場の需要と供給のバランスにより変動するため、現在とは異なる可能性がございます上記は2024.08.28時点の金額です。)

 

『中世人の生活世界』勝俣 鎮夫 (編集)、1996、山川出版社

↑『中世人の生活世界』勝俣 鎮夫 (編集)、1996、山川出版社

天にはホコリが積もって斑点状のシミになりがちです。お売り頂く前にブラシ状のものでそっとホコリを払う(布でゴシゴシ拭かない)と、比較的キレイになります。

↑『民家のみかた調べかた』 文化庁 (著)、1967、第一法規出版

古い本ですが、「古民家研究家ならば必携の書」と言われる名著です。新版が長らく出ず絶版状態で貴重な書籍。通読に支障のない程度の書き込み・線引きであれば買取可能です。

 

今回も良書をたくさんお売り頂き、誠にありがとうございました!

スタッフN

 

【買取品はAmazonの他、以下のサイトで再販いたします。】

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