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2023/04/07

哲学・言語学・社会学等専門書籍の買取 【110冊 14,391円】「世界の文字の図典 普及版」2009年、吉川弘文館

今回は哲学や言語学、社会学等の広い分野に渡る専門書籍の買取をいたしました。以下に特に良い査定額をお付けできたのものを紹介いたします。

「世界の文字の図典 普及版」
「The Guidebook to Sociolinguistics」
「Problems of Dostoevsky’s Poetics (Theory and History of Literature)」
「Mikhail Bakhtin」
「The Cambridge Companion to Narrative (Cambridge Companions to Literature)」
「Mikhail Bakhtin: The Dialogical Principle」
「言葉と物―人文科学の考古学」
「臨床医学の誕生」
「暴力と不平等の人類史: 戦争・革命・崩壊・疫病」
「文化人類学の思考法」
「ミハイル・バフチン対話の原理―付 バフチン・サークルの著作 (叢書・ウニベルシタス)」
「The Dialogic Imagination: Four Essays (University of Texas Press Slavic)」
「全5巻 芝木好子作品集 読売新聞社 1975年」

などなど。

特にロシアの哲学者で記号論者のミハイール・バフチンに関する本が多く含まれておりました。その中には日本語書籍のみならず洋書も含まれておりました。当社では和書のみでなく洋書(ただし、現在は英語で書かれているものに限定させていただいております。)の買取も大歓迎です。専門書の世界では邦訳がまだされていない論文・著作がたくさんあります。そういった本たちは研究者の方たちからの需要が多く、再販が見込めるため高額にて買い取らせて頂いております。

もし、「洋書だから」という理由で買取を断られた経験のある方は、是非、当社にお譲りください!

 

さて、今回も気になった本をご紹介していきたいと思います。今回も読みたくなるような本がたっぷりあって非常に迷ったのですが…最終的にピックアップした一冊がこちらです。

世界の文字の図典 普及版(2009年、世界の文字研究会 編 吉川弘文館)

です。

普及版はお値打ちもの!

「普及版」とあるように、こちらの書籍の原著は1993年に発行されておりまして、その新品価格はなんと17,500円(税込)…!確かに、こういった専門的な事典・辞書の類には高額商品がよくあるものですが、やはりお気軽に手が出せるお値段ではないですよね。

一方で、この「普及版」は5,280円と、3分の1ほどのお値段です。しかも、原版と内容が変わらないというのですから驚きです!(巻末付録の「印刷用文字の大きさ見本」によれば「普及版」は原著を縮刷しているようで、全体的な大きさもコンパクトになっているのでしょうね。)人気のある書籍なのでそこまでお値段は下げられないのですが、今回お売りいただいたものはもちろん中古品のため、近日当店販売HPにて若干お買い得な価格で販売させていただく予定です!

「文字の図典」のスゴイところ

さて、内容の方に入ります。とは言っても「世界の文字の図典」というタイトルが全てを物語っているため、改めて説明するまでもないのですが(苦笑)。

本書では、まず個別具体的な文字の紹介に入る前に「文字」がどう成り立っていったのかを俯瞰します。それは、本書が古今東西で作られた膨大な数の文字たちを「系統づけながら、その成立から現代までを跡づけてみたい」(「まえがき」より)という目的で作成されていることとも合致します。

そのため、第1章では「文字と文化」として、文字の起源、絵文字と文字の違い、表意文字、表音文字など、文字の成立と系統などを理解する上で頭に入れておくべき知識が簡潔にまとめてあります。こちらの章で紹介されている「文字の系統図」は本書で個別具体的な文字の説明を読み進める際に、何度も戻って参照することになると思います。この1ページだけでも興味深いですね。

文字の三大始源が「エジプト文字(ヒエログリフ)」「シュメル楔形文字」「漢字」であることが分かります。(左端の「クレタ島文字」も同じく古くからあった文字ですが、こちらは早い段階で消滅してしまいました。)

また、「まえがき」に「各文字については、その一字一字の読み方や使われ方、文例などをできるだけ掲げる」ことも本書目標として挙げられています。その言葉どおり、取り上げた文字にはそれぞれ音価(発音)や、具体的な単語、碑文に書かれた文章例までが丁寧に掲載されており、その図版の数、なんと1200点以上!これは文字マニアにはたまらないですよね。言語学大好物の私も大興奮です!

豊富な具体例提示の1つ、バビロニア語楔形文字のページに掲載された「ハンムラピ法典 前文」。(余談ですが、ハンムラやハムラではなく、本書では「ハンムラ」です。(こだわり))

また、各文字が解読済みなのか、未解読なのか、どの文字からどういう経緯で進化した文字なのかなどの知識もてんこ盛りに掲載されており、これ一冊があれば世界の歴史をも俯瞰できてしまいそうな大満足の内容です。

個別の文字の紹介

ヒエログリフ

そんなマニア垂涎の本書の内容を少しチラ見せいたしましょう。まずは大人気(?)エジプト文字(ヒエログリフ)から。ヒエログリフ、現在グーグル先生に「ヒエログリフ 変換」で探してもらうと、いろいろな変換サイトが出てきます。例えば、そのうちの1つ「ヒエログリフ変換マシーンさん」で、あるひらがな6文字を入力すると

𓆑𓅱𓂋𓅱𓉔𓍯𓈖𓋴𓅱𓎡𓇌

とヒエログリフに変換出力されます。こういった、ひらがな→ヒエログリフへの変換が可能だということは「ヒエログリフは表音文字だ」と考える方もいらっしゃると思いますが、ヒエログリフには表意文字と表音文字が混在しています。(同じ文字がある時には表意文字として使われたり、別のある時には表音文字として使われたりもする。)これはヒエログリフのみならず、本書全体を読んでいて思ったことですが、世界の文字研究者たちはよくこんな複雑な文字を解読していますよね。彼らが天才であることは疑う余地もありませんが、何より根気がモノを言いそうな分野です。改めて尊敬です。

さて、話を元に戻します。本書p21~p22のヒエログリフの表音文字の単子音・複子音をまとめた図版に従えば、上の例は「f  w  r  w  h  ww   n  s  w  k  y 」(ww は𓍯(下の写真の左上に掲載)を表しています。複子音記号の入力方法が分からず、すみません。)と解読できることとなります。

ちなみに、私が最初に入力した最初の6文字は「ふるほんすき」でした。ローマ字で書けば「fu ru ho n su ki」となりますよね。

そう、気づかれましたか?ヒエログリフには母音を表す文字がないんです。多くのひらがな⇔ヒエログリフ変換表で示されている「あいうえお」の音は、あくまでそれに近そうな、「っぽい音」で作られているんだな、ということを改めて感じました。言語の翻訳だけでなく音写ですら変換時に狂いが生じる。他言語・多文化理解における難しさでもありますが、面白さでもありますね。

しかし、母音がないということは、例えば、「same」でも「some」でも、ヒエログリフにおける綴りは「sm」となってしまいます。常に子音と母音をくっつけて発音する音節文字ひらがなを使う日本語話者の我々には想像できない世界ですが、当時の人々にとって不便はなかったのでしょうか…。この特質のせいで、現在ではヒエログリフの正確な読み方(音)が分からないというのが残念ですが、それもまたロマンです。

イースター島文字

モアイでおなじみ、太平洋に浮かぶ絶海の孤島イースター島。こちらで使われていた文字に「ロンゴロンゴ文字」と呼ばれるものがあります。その文字、それより3500年前に途絶したインダス印章文字と何故だか多くの類似点を持っているのです。(インダス印章文字はインダス文明の崩壊(紀元前2000年頃)と共に使われなくなったと考えられています。)本書では両者の類似について「単なる偶然の符号」(p12)としています。地理的にも遠く隔たっているため実際にそうなのでしょうが、あまりに似ているため話題になりがちです。こちらにもロマンを感じますね!

インダス印章文字とロンゴロンゴ文字の比較。単なる偶然なのか…。「◯ー」(某雑誌)でなくてもタイムスリップとか、宇宙人がもたらしたとか、疑いたくなっちゃいます。

ウガリット文字

フェニキア北端に前15世紀頃栄えたウガリット王国で使用されていた文字。ぱっと見は楔形文字ですが、他の楔形文字とは違い母音を含んだ30の表音文字で構成される世界最初のアルファベットであることが判明(1939年)。「世界最初」のアルファベットですよ!すごい画期的だと思うのですが、一般知名度が低すぎるので載せてみました。ウガリット文字推しです。

資料によっては原シナイ文字の方が古いとしているものもありますが、十分な資料が揃っている最古のものとして本書ではウガリット文字を掲載しているようです。

まだまだ紹介したい文字たちもたくさんありますが、1週間語っても足りないくらいなのでこの辺にしまして、あとは読者の皆様が手にとっていただくのを待ちたいと思います。

とか言いつつ、アラビア文字の読み方と書き方のページもちらり。上の写真では見づらいですが、左ページの右端にはアラビア文字の書き順が掲載されています。見切れている右側ページにはアラビア文字を採用している国ごとの音価と名称が掲載されています。同じアラビア文字でも国によって発音が違ったり、文字そのものがなかったりもするのですね。言語が違うのだから当たり前と言えば当たり前なのですが、考えたことがなかったです。面白い!

文字はロマン、文化そのもの

実は本書、欧米で広く使われているいわゆる「アルファベット」と、我々も使う「漢字」に多くのページを割いているのですが、今回はそこに至るまでのページが面白すぎて、ほとんど読めませんでした(笑)。アルファベットでは活字体もいろいろと紹介されているので、カリグラフィーにご興味のある方にも楽しいページがたくさんあると思います。

   

左:ローマ字ゴチック体。ローマ字と一口に言っても書体も色々ですね。

右:花文字や装飾文字。アラビア文字や日本の書道もそうですが、文字を芸術の域に高めるアイディア、元は絵文字から起こったと考えればごく自然な行為なのかも知れません。

他にも、「文字」と聞いて真っ先には出て来ないであろう周辺事項として、ヒエログリフや楔形文字数字、アラビア文字等における数字の書き方や(p535~)、記号(p543~)、速記文字(p549)やモールス符号(p551)、点字までもが紹介されています。

   

左:数字の章ではヨーロッパにおける数字の変遷(p539)なども紹介されていて興味深いです。

右:速記文字。自動音声認識技術により消滅してしまうのでしょうか…。

すでに消滅してしまった文字を読み解くことに、あまり意味を見出さない人もいるかも知れません。現在の生活にはなんら影響がないではないか、と。

ですが、本書を読んでいると、そこで消滅してしまった文字たちにも、その前身があったり、そのアイディアを受け継いで進化した子孫たちがいたり、別の言語に吸収されて見事に変身を遂げたものがいたり…俗に生物学でいうところのミッシングリンクを埋める作業というのは、人々が作り上げた文化の進化過程そのものを解明する手がかりになると思うのです。

本書でも触れられていることですが、文字の伝播は地理的に隣接していることの他、宗教的な広がりとともに進むという特徴があります。どの時代、どこで、どのような文字がそこにあった/あるのか。人々の交流の証を示す文字は、考古学や宗教学、社会学、人類学はもちろん、遺伝学や、もしかしたら疫学などにすら考証のヒントを与えうるものでしょう。

各地で先人たちが作り上げた文字を眺めながら、世界地図を広げて「文字を見てまわる世界旅行がしたいなぁ」とつぶやいてしまった春でした。

 

今回も良書をたくさんお譲りいただき、ありがとうございます!

スタッフN

※ささやかにお知らせです。

当ブログはこれまで

前段:お客様から買い取らせていただいた商品から特に良いお値段を付けさせていただいた本の紹介、ご売却いただく際にご留意いただきたいこと、当店のサービス等の紹介

後段:上記からピックアップした本のレビュー

という構成で執筆させていただいておりましたが、諸事情により当面の間、後段のブックレビューについてはお休みさせていただくこととなりました。前段部分は今後も更新していきますので、どうぞよろしくお願い致します!

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