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2022/10/27

経済学・ビジネス・数学・社会学・歴史・福祉などの書籍の買取【114冊11,851円】とヤシガラ椀の外へ(2009年 NTT出版)

今回は、経済学を中心に・ビジネス・数学・社会学・歴史・福祉など幅広いジャンルの書籍の買取をいたしました。その中から特に良い査定額をお付けできたものを紹介いたします。

 「妓生(キーセン)―「もの言う花」の文化誌」
 「モムゼン ローマの歴史II―地中海世界の覇者へ―」
 「実録KCIA―「南山と呼ばれた男たち」」
 「日本における在来的経済発展と織物業―市場形成と家族経済―」
 「ゼミナールゲーム理論入門」
 「現代中国の産業集積―「世界の工場」とボトムアップ型経済発展―」
 「Growing Public: Social Spending and Economic Growth since the Eighteenth Century」
 「近代資本主義の組織-製糸業の発展における取引の統治と生産の構造-」
 「ヤシガラ椀の外へ」
 「日本における産地綿織物業の展開」
 「エコノミックオーガニゼーション―取引コスト パラダイムの展開」
 「Finance, Governance, and Competitiveness in Japan (Japan Business and Economics Series)」

などなど。

今回の特徴は、賞を取っている本をちらほらと見つけることができたことでしょうか。「モムゼン ローマの歴史II」に注目すると、著者テオドール・モムゼンは「ローマ史を代表作として、存命中の歴史の著作者の中では最大の巨匠である」ということを理由に1902年にノーベル文学賞を取っています。本体価格も、それなりのお値段なのですが、評価の高い本がそろっていた印象を受けました。一方で、賞を取っていても、例えば、小説などの文庫本(最近ではカズオ・イシグロなど)は本体価格が低額で流通量も多いため、残念ながらあまりお値段をお付けできないことが多いです。やはり専門書は史料価値が出てくることもありますので、一定期間値崩れしないと思われます。ご自宅に眠っている専門書などありましたら、ぜひ当店をご利用ください。

今回ご紹介させていただくのはこちら

 

「ヤシガラ椀の外へ 」(2009年 ベネディクト・アンダーソン(著)加藤剛(翻訳))

です。

表紙のカエルに惹かれ思わず手にしてしまいました。一茶の句を彷彿させるようなカエルですね。素敵な表紙ですね。とりあえず一読してみました・・・。軽い気持ちで読みだしたことを少し後悔・・・。というのも内容が盛りだくさん過ぎて、どこを紹介してよいやらしばし迷走・・・。個人的嗜好も入った紹介になっている感も否めませんが、何とかまとめていきたいと思います。個人的には、後述する「想像の共同体」を先に読んだほうが、より楽しく読めるのではと思いました。

 

本書は、世界的に有名なナショナリズム研究の古典「想像の共同体」の著者であり、政治学東南アジア研究家のベネディクト・アンダーソン(1936年-2015年)によって書かれた回想録です。

訳者あとがきにあるように、本書は出版に際し、独自の履歴を持ちます。というのは、アンダーソン氏(父親の赴任先中国で生まれ、アイルランド市民権を持っています。すでにグローバルの匂いがします。)は、メモワールのようなものを書いてほしいという依頼に、当初は乗り気ではありませんでした。しかしながら、編集者の遠藤千穂氏と、アンダーソン氏の指導を受けた訳者の加藤氏に口説き落とされ、日本の若い研究者、大学生、大学院生の役に立つならば、と発行に至った書籍です。というのも欧米において回想録、自伝といったようなものを著すということは、学究文化にそぐわないと考えていたためだそうです。そのため、日本語限定の書籍となっています。そして、アンダーソンの元原稿を単に訳したものでなく加藤氏のインタビュー結果を元に翻訳、加筆されています。

 全体の印象としては、「想像の共同体」を著すに至るまでの背景、グローバル化を見据えた提言等がされているということ、研究するとはどういうことか、研究するうえで何が重要かという著者のメッセージが出てくることでしょうか。

また、アメリカとの大学制度の違いなどの部分では、わかりやすいように日本のことについても加筆されています。ちなみに、本書の題名である「ヤシガラ椀の外へ」はインドネシアやタイの諺「ヤシガラ椀の下のカエル」からきています。若干ニュアンスは違うそうですが、「井の中の蛙」みたいな感じです。本書で「ヤシガラ椀」は主に大学制度や母語といったものを象徴しています。

 本文は以下の6章で構成されており、各テーマは日本側の依頼に基づくものです。各章について紹介していきたいと思います。

 第1章は、主に幼少期からの成人期までの知的遍歴について書かれています。本書のテーマの1つでもある「幸運」について触れられています。国際的で、比較を旨とするような生の見方を身に付けられる環境の中で育ったこと事を、「幸運」という発想でとらえています。更に、アイルランド、イングランド、アメリカで暮らす中で、アクセントの違い、表現の違いを笑われるなどの体験から、常に「周辺」に位置しているという感性を培う経験ができたと語っています。地域研究にはその場所に愛情を持つことが重要だと語る氏ですが、幼少の頃に素地ができていたのですね。

 2章は、アメリカにおける東南アジア研究の草創期、コーネル大学における地域プログラムという制度的位置付けや、東南アジアプログラムへの批判的省察、主にディシプリン(学問分野)間のアンバランス、問題点などについて語られています。また、1960年代以降の米国では旧ソ連に宇宙開発で後塵を拝したことや、ベトナム戦争の敗戦を反省して、大学における東南アジア地域研究に対して多額の予算を組んだこと、氏に対してのインドネシアにおける旧日本軍占領期の研究依頼に至るまで、について書かれています。

 3章は、インドネシア・シャム(タイ)・フィリピンでのフィールドワークについて書かれています。フィールドワークに内在する根源的な意味について「すべてに対して不断の好奇心を持ち、自らの目と耳を研ぎ澄ませ(中略)あらゆることについて書き留めておくべきだ(中略)何か違う、何かが変だという経験は、私たちの五感を鋭くし、そして比較への思いを深めてくれる」この言葉通り、この章は著者がそのように考えるようになった過程が、様々なカルチャーショックを受ける様子やインタビューから推測できます。興味深い章です。

 第4章は、比較研究には、1.どのような研究においても類似点・相違点を追求2.意外性や驚きのある比較3.時間軸の比較は少なくとも複数ネーションを横切る形の空間軸の比較と同様に重要4.比較を行う際には立ち位置に留意することが肝要と述べられています。

 5章は、ディシプリンと学際的研究(学際:研究などのいくつかの異なる学問分野にまたがってかかわる様子)について、18世紀頃からの大学の変遷が歴史的背景とともに書かれています。アカデミックが抱える問題点が見えてくる論考がなされています。ディシプリンの壊し方についても論考されています。余談ですが、最近では東工大学と東京医科歯科大が統合を目指すと話題になりましたが、学際的研究が進むといいですね。

 6章は、今後の国と大学制度の問題点を指摘し、あり方についての提言がなされています。若い研究者とはどうあるべきか、などについて語られています。その中でこれは!という一文を抜粋しておきます。「大学や学部の制度、あるいはディシプリンに安住してしまうと、研究者は港を出ようとはせず、風を探そうともしなくなる。風を探そうとの心構え、風を見つけたらそれを探そうとする気概が大切なのだ。」グサッとくる言葉ではないでしょうか。「ヤシガラ椀の外へ」ですね。また、近年のデジタル化の弊害についての懸念についても書かれています。著者アンダーソンの強いメッセージが伝わってくる章です。

 アカデミックな環境とは離れた生活をしている身としては、一読では正確に読み取ることは難しかったですが、研究者を目指している方は、大いに頷ける書籍ではないしょうか。若い研究者を目指している方、研究者の方に手に取って参考しにしていただきたい1冊です。

 

今回は良書を多数お譲りいただきありがとうございました!

 

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