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2022/07/11

神話・美学・生物学等の書籍の買取 「「装飾」の美術文明史―ヨーロッパ・ケルト、イスラームから日本へ」2004年、NHK出版

今回は神話や美学、芸術のほか生物学に関連のある書籍の買取をいたしました。以下に特に良い査定額をおつけできた書籍を紹介いたします。

「聞き書 宮沢喜一回顧録」
「ホモ・デウス 下: テクノロジーとサピエンスの未来」
「「装飾」の美術文明史―ヨーロッパ・ケルト、イスラームから日本へ」
「ケルトの想像力 ―歴史・神話・芸術―」
「黄金と生命 ― 時間と練金の人類史」
「怪物のルネサンス」
「生命海流 GALAPAGOS」
「ガン・ロッカーのある書斎」
「利己的な遺伝子 <増補新装版>」
「変格探偵小説入門――奇想の遺産 (岩波現代全書)」
「岩波 四字熟語辞典」
「万物の尺度を求めて―メートル法を定めた子午線大計測」
「魔女狩り (ヨーロッパ史入門)」
「芸術人類学講義 (ちくま新書)」

などなど。

ユヴァル・ノア・ハラリの「ホモデウス」はリスト中は下巻のみとなっていますが、上巻も一緒に買取させていただきました。中には上下巻がセットになっていないと買取ができないものなどもあるのですが、話題性の高い比較的新しい書籍などバラ売りでも値段がつくケースもあります。例えば、「上巻は借りて読んだから手持ちはないんだけど、下巻は持ってる。でも、上巻がなくちゃ売れないかな・・・」などお迷いの場合は参考にしてください。

なお、当店では書籍を実際に送る前に査定額の概算がわかる事前見積のサービスも行っておりますので、よろしければご活用ください。見積もりは無料です!

 

さて、今回も気になる一冊をピックアップしてみました。それがこちら

「「装飾」の美術文明史―ヨーロッパ・ケルト、イスラームから日本へ」(2004年、鶴岡真弓 著、NHK出版)

前々回私が担当した記事もNHK出版の本だったので、すっかりNHKの回し者のようですが、今回こちらの本を手にとったのは偶然です。

どちらかというと、出版社よりも注目したのは本書の著者、鶴岡真弓氏の名前です。

上記リストの本のうち、本書も含めた3冊が彼女の手によるものなのです。現在多摩美術大学の名誉教授である彼女、処女作「ケルト/装飾的思考」(1989年)により我が国における「ケルト文化」ブームの火付け役となりました。

一時期、ケルト文化の香りを色濃く残すアイルランド出身の歌姫エンヤが爆発的人気を誇っていましたが、ちょうどその時期(エンヤの日本デビュー曲「オリノコ・フロウ」は1988年発売)と重なります。

そういったタイミング的な縁もあってか、本書巻末の著者紹介では「NHK教育TV「人間大学」に出演、ドキュメンタリー映画「地球交響曲第1番」(龍村仁監督)でアイルランドの歌姫エンヤと共演もしている」と、エンヤとの関わりについてもさらりと触れられています。

 

さて。当時このケルト文化ブームのさなか、私は物事に影響されやすいお年頃でした。「ケルト、なんかわからないけどクール!」と、ケルトが何か分からないまま「ケルティックなるもの」「ケルトっぽいもの」に施された文様の模写なんかをしたものです。懐かしい。

本書の著者である鶴岡氏は、既述処女作名も、上記リスト中の「ケルトの想像力 ―歴史・神話・芸術―」も、「ケルト」について詳述していることからケルト文化の専門家のように見えますが、より広く「「装飾」の歴史を軸に、ヨーロッパの古層とユーラシアとの「美術文明論」的比較研究・調査を行」うことをライフワークとしています(「」部分、巻末著者紹介より引用)。

本書において注目すべきは、本書は単なる「美術史」の本ではなく、美的表現の中でも特に「装飾」と呼ばれるものの変遷を追いながら、ヨーロッパがいかにさまざまな文明と交通することでみずからを成り立たせてきたのかを説明している点にあります。つまり、絵画や彫刻といった純粋に美を表現するために作成された「純粋美術」ではなく、実用品などの表面に施された「応用美術」としての「装飾」、あるいは、それらの一形態である「文様」にフォーカスしているのです。(「純粋美術」と「応用美術」との対比については本書「プロローグ」を参照。)

そして、注意すべきは本書はヨーロッパを舞台に選んでいることです。全世界に数多存在する文様の全関係などを網羅するものでもなく、ヨーロッパにおける美的表現(ここでは装飾/文様)が極東にまで伝播する経過を説明する本でもないので、その点は読む前に注意が必要です。

 

本書においてはまず、ヨーロッパにおける美的表現の一形態として、先程のケルトの装飾・文様の様式を紹介します。ケルト文化の花開いたアイルランドやガリアで発見された金工や修道僧たちの手による聖書の写本に見られる、いわゆる「ケルト渦巻文様」「動物組紐文様」もその具体例として紹介され(第1章「装飾」の復活-ケルト文様との出会い)、その表現が今日のヨーロッパ的なクラシカルでスタンダードな「美」の基準となっている古代ギリシア・ローマの美の様式とは決定的に異なることが説かれます。曰く、クラシカルな古典主義の装飾にはない特徴、つまり、人間には制御できない自然を具象的にではなく、抽象的に、あるいは観念的に表現しているというのです。

その他にも、ヨーロッパ内部での装飾の歴史としてノルウェーのキリスト教会の建築および装飾、北方ヨーロッパの動物組紐文様、ゴシック様式、ルネサンス期のグロテスクやウィリアム・モリスのアーツ・アンド・クラフツ・ムーヴメント、アール・ヌーヴォー、副題の示すようにイスラムのアラベスク文様、果ては19世紀末から20世紀初頭にヨーロッパを席巻したジャポニズムにおける装飾的意味合いなどなど、非常に長い時間軸・広い時代地域における装飾的傾向に触れつつ、古代から近代にかけてヨーロッパの装飾に影響を及ぼした、いわば正当なヨーロッパに対するカウンターカルチャーとも言えるムーヴメントを装飾/文様の視点から紹介していきます。(この過程で、美術史における各ムーヴメントのおおまかな特徴もおさらいできますので、美術に興味のある方なら全体を興味深く、楽しく読むことができると思います。)

 

本書の後半にいくに従い、この「古典主義 VS それを揺るがす観念の表象たる装飾/文様」の構図が明瞭になっていくのですが、この揺さぶる側のカウンターカルチャーは異教・異境の人々を表象するものとして、ヨーロッパの人々の恐れ/畏れでありながら、憧憬の対象でもあったということにも触れます。ただ単に外部のモノを「異形のモノ」と排除するのではなく、ときにそれを否定しつつも(例えば、新古典主義や建築家ミース・ファン・デル・ローエをはじめとするモダニズムの台頭)、両者が代わる代わる、時には同じ時代・同じ場所にせめぎあいながら存在したことが、現在のヨーロッパ美術に深みを与えたのは言うまでもありません。

 

エドワード・サイードが「オリエンタリズム」で指摘したように、時にヨーロッパ美術における「エキゾチックなもの」は、ヨーロッパの視点を通して「こうであってほしい異境の地」のヨーロッパ的願望を単に表出したものに過ぎないかも知れません(第9章「アラベスク」とオリエンタリズム-19世紀の欲望)。それが見る者に適切ではない印象を与えることもあるかも知れませんが、その怪しさや羨望の眼差しを含んだ芸術に惹かれる人々が多くいるのも確かです。

本書の表紙に描かれたブロンツィーノの「トレドのエレオノーラとその息子ジョヴァンニ」で彼女の着ているドレスのダマスク織の病的なまでの描写を見てください。あるものに付随した「イメージ」にここまで固執できるのはヨーロッパ人であるとないとに関わらず、未知のものに惹かれ、畏れを懐きながらもそれを征服したいという好奇心を持った人間であるからゆえではないでしょうか。それを人間の性とするなら他者の取り込みは今度も必然的に続き、美的表現はせめぎあいを見せながらも永遠に変化し続けるのだと思います。

そう、まさに著者がケルトや唐草の文様に暗示を見た「成長」、そのもののように。

と、今回はドヤ顔で格好をつけたところで終わりにしたいと思います。

今回も良書をたくさんお譲りいただきありがとうございました!

スタッフN

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