2021/09/28
製菓などに関する書籍の買取 「パンの日本史―食文化の西洋化と日本人の知恵」ジャパンタイムズ
今回の買取は製菓に関する書籍がほとんどでした。以下に特に良い査定額をお付けできたものを紹介します。
「パンの日本史―食文化の西洋化と日本人の知恵」
「Apprenez l’art du chocolat」
「シュルトゥーの壮麗―現代ピエスモンテとデコラシオン」
「フランス菓子百科 (3) 新しい菓子・祝い菓子・アメ細工」
「イヴ・チュリエ フランス菓子百科 (1) 標準菓子 1982年」
「フランス菓子百科 (2) 冷菓・糖菓」
「全2巻 ボン・ガトー 生菓子 焼き菓子 チョコレート菓子 基礎知識 2001年」
「4冊揃い アシェット・デセール 全3巻+絵コンテ1999年 株式会社ニチブン」
「8冊 デザート・洋菓子全書 温製デザート 冷製デザートと洋菓子他 1989年-1990年」
「新編 日蓮大聖人御書全集 日蓮正宗 大石寺版 創価学会 昭和50年」
「5冊 シェフシリーズ」
などなど。
リスト中には発行年の記載のないものも多くありますが、ほとんどが1980年から1990年代に発行された比較的古いものです。ですが、このリスト中には買取額500円以上となったものを掲載しています。このように発行年が古いものでも入手困難なもの、需要が高いものについては良い査定額をお付けできることもあります。同様のご不要品がございましたら、ぜひ当店にお譲りください。
さて、毎回気になる1冊をピックアップしている本ブログ。今回はこちらにしました。
「パンの日本史―食文化の西洋化と日本人の知恵」(安達巌著、1989年初版・㈱ジャパンタイムズ)
です。出版社のジャパンタイムズは日本最古の英字新聞を発行している会社ですが、こういった著作も発行しているのですね。
著者の安達巌氏は1964年の東京パラリンピックで50m平泳ぎ金メダリストにして芸術家の人・・・
ではありません。
同姓同名の別人であるところの本書の著者、安達氏は1906年生まれ。食物史家であり、古代史家でもあります。本書を含むパンに関する本はもちろん、古代史、特に出雲地方の古代史に関する著作も多数お持ちです。本書「パンの日本史」の「はしがき」にも突如として「出雲族の列島支配が・・・」云々という記述が登場しますが、そういった経歴も影響してのことなのでしょう。私も含め、安達氏の著作に初めて触れる人はちょっと面食らうところがあるかも知れません。
この安達氏、本書が発行された1989年の時点で83歳(本書「はしがき」より)でいらっしゃいましたが、まだまだこの道についての探求を深める旨を明言されているところをみると、実にかくしゃくとした御仁であったことが伺えます。上述の専門分野「出雲」以外のパンにまつわる日本史の記述も、古今東西の文献を引用しての分析も、頭脳の衰えを感じさせない筆致です。ときにユーモアと皮肉が入り混じった表現には、静かな笑いが漏れてしまいます。
ところで、「はしがき」には、“鉄砲が伝わった南蛮貿易よりもはるか前からオリエントを経由して中国からもたらされたパンが日本には伝わっていた”という導入があるものの、本書で実際に重点が置かれていたのは、幕末の伊豆韮山代官・江川坦庵(本書では江川太郎左衛門坦庵)が兵糧としての必要性から開発したパンの逸話以降、近代から現代のパン食についての説明だったように感じます。
そこに絡めて、南蛮交易の際に取り入れられたはずのパン食文化が、隠れキリシタン狩りと相まって一度忘却の彼方に押しやられた経緯、そして、そのパンが江川によって復活した経緯などは、そういう切り口があったのか!という新鮮な驚きと共にとても楽しく読めました。
ところで、世界遺産にも指定された韮山反射炉を作るわ、江戸湾にお台場を作るわ、現在のパンの日(4月12日)のもとを作るわ、塾生から木戸孝允含む優秀な教え子を排出するわ、日本初の西欧式船を造るわ・・・江川坦庵の天才ぶりに惚れました・・・!その後、調べたところによれば江川が作った近代的陸海軍において「右向け、右」「前ならえ」などの号令が作られたとか。55歳の若さで江川はこの世を去ったそうですが、どれだけ日本の歴史に爪痕を残しているのでしょう(驚)。
次の大河は江川にしてほしいです。大河観てませんが(←おい)。
話を元に戻しますと、本書ではその後、南蛮文化の伝来→文明開化と食生活の洋風化→戦後日本の食生活近代化と順をたどりながら、最後は日本におけるパン、めん、米食のバランスを概ね讃えるニュアンスで締めくくられています。曰く、日本のそういったバランスのとれた食生活は世界のお手本となっているのだ、と。
こちらの本が執筆された1989年といえば、バブル経済の真っ只中。筆者も明治・大正の動乱の世からの戦中・戦後の大混乱を抜け、未曾有の経済成長を経て、日本人としての矜持も最高潮の時点だったと想像するのは行き過ぎでしょうか。やや未来について楽観視で終わる本書に対し、一抹の申し訳無さを感じるのは、「そこまで皆さん満足に暮らしてますかね?」という疑問がどうしても浮かんでしまうからなのでしょう。確かに、日本における食に関する水準は世界的に見ても大変恵まれたものではあり、その点においては謙虚に感謝すべきなのかも知れませんが。
今を生きる日本人にとっては、その先の課題、つまり、“今、当たり前に消費されている食生活は決して当たり前のものではない”という事実こそ、強調して伝えられるべき点かなと思いました。とはいえ、本書の中でもパン食を通じて、それらが意図的に広められた文化であることにも触れられており、安達氏が決して単なる楽天家ではないことも書き添えて終わりにしたいと思います。
今回も良書をたくさんお譲りいただき、ありがとうございました!