2021/03/05
国際協調・政治、ジェンダー、フェミニズムなどに関する書籍の買取 ー「子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から」
今回は国際政治や国際協調、異文化理解、フェミニズムなどジェンダーに関する書籍を多数買取させていただきました。
その中でも特に良い査定額をお付けできたものを以下に紹介させていただきます。
「日本の留学生政策の評価―人材養成、友好促進、経済効果の視点から」
「越境者の政治史―アジア太平洋における日本人の移民と植民―」
「中国ジェンダー史研究入門」
「ドイツ在住トルコ系移民の文化と地域社会―社会的統合に関する文化人類学的研究」
「日本の「ゲイ」とエイズ: コミュニティ・国家・アイデンティティ」
「ジェンダー・トラブル―フェミニズムとアイデンティティの攪乱」
「日韓歴史認識問題とは何か (叢書・知を究める)」
「フェミニズム文学批評 (新編日本のフェミニズム 11)」
「家族、積みすぎた方舟―ポスト平等主義のフェミニズム法理論」
「子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から」
「模倣の法則」
「フェミニズムの政治学―― ケアの倫理をグローバル社会へ」
「シティズンシップの政治学―国民・国家主義批判 (フェミニズム的転回叢書)」
「家父長制と資本制―マルクス主義フェミニズムの地平 (岩波現代文庫)」
などなど。
もう、どれもこれも気になる本ばかりで今回もすごく一冊を選び出すのに苦労しました。
が、今回ピックアップしたのはこちらの本
「子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から」(2017年、みすず書房)
です。
帯にあるように、発売されたその年(2017年)に新潮ドキュメント賞を受賞しています。
イギリスの貧困地区(平均収入、失業率、疾病率が全国最悪の水準1%に該当する地区)にある託児所に保育士として勤めた経験から執筆された本書では、ミドル・アッパークラスとアンダークラスの人々の分断が浮き彫りにされています。
本書の構成は大きく2部に分かれており、第1部は2015年から2016年の記録でイギリス保守党による緊縮財政により予算が大幅カットされた後の託児所の描写、第2部は2008年から2010年、緊縮財政発動前、労働党政権時代の託児所の記録です。
こちらの託児所は保育園などとは違い無料で利用でき、アンダークラスの人々が利用する慈善団体運営施設に付設されたものです。そこに通ってくる子どもたち自身はもちろん、その親や、ひいてはその親が置かれる環境、地域の格差、分断を通して・・・つまるところ、それを変化させうる政治の責任について、保育者としての著者が淡々と、時にはブラックユーモアを交えながら怒りを綴っています。
そのカラリとした文体は読みやすいのですが、内容は非常に重いものです。私は第1章まででやるせない思いを止められず、途中で本を閉じてしまいました・・・。
ところで、この本の主な登場人物たちの属する下層=アンダークラスについてですが、第1部の2016年までの記録が新しいものだからといって、イギリス国内におけるアンダークラス(著者によれば生活保護を受給し生活している人々の層を指し、労働貧困層より更に「下」の階層)問題は今までだってさんざん議論されてきたもので、それが今更ドキュメント賞を受賞することにわずかな違和感も感じます。
UKロック大好きな私、貧困層からのし上がってきた数々のロックバンドが、その出自をネタにしたルサンチマン高めな歌詞をいくつも知っています。でも、それって1980年代からの話題じゃん、と。
その点は著者も感じているところで、本書のP27からのコラム「貧困ポルノ」の項でそう書いています。問題なのは、議論されてこられた割にはアンダークラスの人々の生活はまるで「臭いものには蓋」よろしく、見ないフリをされてきたということです。アンダークラスの人々の問題は「パンドラの箱」であり、「上」のクラスの人々(富裕層)は、その恥部が自国にあることを認めようとしなかった。そればかりか、「上と下」の分断が起こってしまっているイギリスにおいては、すでに「上」の人々から「下」の人々の生活実態は実際に見えないものになっているという指摘もされています。
同じ社会の構成員なのに、「見えない人」たちが居る。これって、想像するととても怖いことです。いや、すでに「同じ社会」に属していないと言えるのかも知れません。これこそが「分断」であると実感すると同時に、ふと、「この恐怖感は英国のことだと思って読んでいるからこの程度だけど、じゃあ、日本ではどうかな?」と思い及び、ゾッとしました。
日本でも格差社会が叫ばれて等しいですが、まだ「ここまでの状況じゃない」と何となく安心して構えている風がありました。しかし、それはどうしてでしょうか?
それは、イギリスに比べて移民が少ないからでしょうか?・・・いや、日本でも増えてきています。
教育の場で富裕層と貧困層がまだ交流できているから?・・・いや、日本でも本書にあるような富裕層=私立、貧困層=荒れた公立という教育ムードが固定化されつつあると感じます。
イギリスと同じじゃない、と言える状況では全然ないのです。
本書では、保守党による緊縮財政によって直接的・間接的に富裕・貧困という階層を基準に分断された社会から、結果的には閉鎖に追い込まれた貧困層のシェルターであった託児所にあったもの、それは「アナキズム」であったと著者は「あとがき」で断じています。
アナキズム=無政府主義と直結させると一気に怪しさが爆発しますが、「すべての不本意で強制的な形態のヒエラルキーに反対する政治哲学と運動である」(wikipediaより)と定義するならば、今の日本の底辺にくすぶっているのも、まさにこれではないかなと感じます。
今はイギリスに限らず、世界中でこの「くすぶり」が暴発しそうなキナ臭さが漂っていると思うのは私だけでしょうか。
本書の登場人物たちや社会を対岸の火事とせず、「何かできないのか、とりあえず最後まで読んで受け止めなくては・・・」と思った昼下がりでした。
今回も良書を沢山お譲りいただき、ありがとうございました!