2020/11/02
哲学・地史学・語学などの書籍買取
今回は哲学関係を中心に地誌学や語学などの書籍を買取させていただきました。以下に特に良い査定額をお付けできたものをご紹介します。
「独習者のための楽しく学ぶラテン語」
「岩波哲学小辞典」
「ソシュールの思想」
「思い上がりひねくれわざとらしさ―失敗した現存在の三形態」
「モンテーニュは動く」
「書物から読書へ」
「所有の歴史―本義にも転義にも (叢書・ウニベルシタス)」
「還らぬ時と郷愁 (ポリロゴス叢書)」
「新視覚新論」
「自跋集―東洋史学七十年」
「聖書 新共同訳」
「聊斎志異 上 (奇書シリーズ 6)」
「エルスケン 巴里時代―1950‐1954」
「和文英訳の修業」
「ヘーゲル美学講義〈上〉」
「明解国語辞典」
「Mapplethorpe」
「ことばの力」
「日本滞在見聞記―日本における五年間 (1968年) (新異国叢書〈10〉)」
「草津町 草津温泉誌」
「2冊 雄山閣 大日本地誌大系 近江国輿地志略 1-2巻」
などなど。
今回も気になる本がたくさんあったのですが、特に気になった一冊はこちら。
「所有の歴史―本義にも転義にも (叢書・ウニベルシタス)」 (1995年 初版2刷)です。
原著「Au propre et au figure – Une histoire de la propriete」(1988)が出版される前に、本書著者のジャック・アタリは代表作である「アンチ・エコノミクス」(マルク・ギョームとの共著)を発表しています。
この「アンチ・エコノミクス」が有名なので、ジャック・アタリについてご存知の方も多いとは思うのですが、アタリの華々しい経歴の一部を紹介いたします。
ジャック・アタリは1943年生まれ。フランスの思想家で経済学者、作家です。1981年、若干38才でミッテラン大統領の補佐官となり、1991年から1993年まで欧州復興開発銀行の初代総裁を務めました。そして、歴代フランス大統領のブレインとして活躍、現大統領のマクロン氏がその任に就くのにも一役買っています。
…と、要約してしまうと、たったの数行に収まってしまうのですが、すごい経歴です。若い頃からエリート街道を突っ走ってきており、今に至ります。
上記経歴からすると、政界の重鎮であるイメージを強くされるかも知れませんが、彼の知的バックグラウンドは文化人類学、精神分析、記号学、情報理論、社会学など非常に多岐にわたり、本書でも、その多角的で豊富な知識が存分に活かされています。それは、本書後半に付随している書誌の数450(!)というところからも伺えます・・・。
本書では人間の長い歴史の中で「〈モノ〉を〈所有〉する」ということは、各時代における所有システムの成功と失敗を分析、さらにはその進化を予見することから、人間における「所有システムの隠された意義を暴露する」ことを目論むものであります(序論より)。そのために、アタリは所有システムの段階を「神々の秩序」「帝国の秩序」「商人の秩序」という3段階に分けて論じています。それによれば、それぞれの秩序が意味するところの多産財は女性、土地、貨幣と変化してきており、現在の我々が生きる世界は、貨幣を社会基盤と基礎づける「商人の秩序」により規定されていると指摘します。
確かに、我々が「所有」という単語からイメージするものといえば、金銭や物品だと思います。アタリの指摘は一般人の実感するところと近いものがあります。
また、アタリは「所有」という単語の意味を、そもそも「概念や観念を持つこと」だと広く捉え、そうであるならば、「愛すること」や「命令すること」もそれに含まれるのでは?という壮大な問題設定から「所有」への思考を展開しています。アタリは自身で、その眼前にある考慮の対象のあまりの膨大さに「眩暈」がすると表現していますが、それでもそれを1つの著作にまとめようというのですから、やはりエリート知識人の理想の高さは俗人の理解が及ばないところにあるのでしょう。
ただ、序文を読むにあたり、訳者が訳出に悩んだという、アタリが用いる単語の多義性まで考慮に入れて完全に理解しようと思わなければ、アタリの主張は簡潔で、丁寧に読み込みさえすれば、さほど難解でもないと感じられました。アタリの政治経済人として一線で活躍するスマートさが、読者の目線に降りる気遣いという余裕さを見せているのでしょうか。特に本書の思考の出発点ともいえる、「所有が秘め隠しているものは恐怖である」という部分などは、非常に実感をもって共感できるところです。また、「私的所有の歴史とは人間の固有性の剥奪の歴史である。」と厳しい見解を見せたかと思えば、それに対抗しうる手段を「人間の美的創造力」とするなど、案外この人はロマンティストなのかな?とも感じさせられます。
ジャック・アタリは2017年に「2030年 ジャック・アタリの未来予測」という本を出版しており、こちらの本も好評を博しましたが、そこでも現状の危機を強調しつつも、結論部ではささやかな光を差し込ませます。
政治に関わる人物が悲観的であるだけではやるせなくなりますが、ツンデレとでも言える知的エリートに、ちょっと、いや、かなり惹かれてしまった秋の読書タイムでした。
今回も良書をたくさんお譲りいただき、ありがとうございました!