2019/12/19
文化・歴史・思想関連の書籍の買取
今回は文学史、文化史、芸術や哲学などの思想などの人文学系の書籍を多く買取させていただきました。以下に良い査定額をお付けできた本をご紹介します。
「Hitler, Mein Kampf – Eine kritische Edition」
「ジャコメッティ展」「アドルフ・ヴェルフリ:二萬五千頁の王国」
「アイスランド・サガ―血讐の記号論」
「マルクス主義という経験―1930‐40年代日本の歴史学」
「英語コーパス言語学―基礎と実践」
「Publikumsbeschimpfung und andere Sprechstuecke」
「アングロ=サクソン社会における奴隷の研究―方法論的試み」
「北御門二郎 魂の自由を求めて: トルストイに魅せられた良心的兵役拒否者 (ジュニア・ノンフィクション)」
「周縁の文学―ベルギーのフランス語文学にみるナショナリズムの変遷」
「文字と組織の世界史:新しい「比較文明史」のスケッチ」
「いかに世界を変革するか――マルクスとマルクス主義の200年」
「幻想の坩堝 ベルギー・フランス語幻想短編集」
「『資本論』の新しい読み方―21世紀のマルクス入門」
「オランダ公共図書館の挑戦: サービスを有料にするのはなぜか?」
「沈黙する教室 1956年東ドイツ―自由のために国境を越えた高校生たちの真実の物語」
最初の「Hitler, Mein Kampf – Eine kritische Edition」ですが、Kampfはドイツ語で戦い、試合という意味ですね。訳すと「私の(Mein)戦い(Kampf)」で、邦訳では「我が闘争」で通っているヒトラーのアレですね。そういえば、具体的にはどのようなことが書かれているのか読んだことはありません。興味津々です。
上のリスト全体を見ると、「マルクス主義」という言葉が多いように思われますが、資本主義経済の行き詰まりがあるとマルクスを見直そうという機運が出がちなことも反映されているのかも知れません。「『資本論』の新しい読み方―21世紀のマルクス入門」などもとても内容が気になる本です。
ですが、今回、特に気になった本がこちら。
「オランダ公共図書館の挑戦: サービスを有料にするのはなぜか?」
(2018年9月20日 初版第一刷発行)です。
古本屋に勤めているくらいですから自分も本好き、故に図書館も大好きですが、図書館利用にお金がかかるとしたら、どうでしょう?オランダでは図書館におけるサービスが有料であるというこちらの本の題名、かなりセンセーショナルではないですか?
とはいえ、そのオランダでも、さすがに資料の閲覧は無料ですし、18歳未満の子どもについては会員登録も(原則)無料なので、すべてが有料というわけではありません。また、生活困窮者等に対しては割引などが用意されており、情報にアクセスするという基本的な人権を必ずしも侵害する体制ではないということも本書では明らかにされています。
そして、オランダ、特にアムステルダムの大小様々な図書館の美しい佇まいや取り組みが紹介されており、思わず「素敵!」と羨ましくなってしまいました。日本の図書館では未だに紙媒体の本の貸し出しが中心ですが、オランダではもっと様々なメディアを利用でき、更にはその使い方まで学習できる、総合的なリテラシー向上施設として図書館が重要な場となっているようです。また、カフェが併設されていたり、文化的プログラムの提供が頻繁に行われていたりと、他社と交流する場として地域住民に開かれた魅力的な場所であることが伺われます。
惜しむらくは、著者自身も繰り返し述べている「ダッチ・デザイン」の良さが、本書に挿入された小さな白黒写真からはあまり味わえない部分でしょうか…。(口絵写真も何ページかにわたってあるのですが、デザインファンとしては少し物足りない気がします。)
サービスが有料化された原因ですが、本書で最後の最後に出てくるマーガレット・サッチャーの規制緩和やら民営化などの新自由主義的な空気の波及が主たるものとして議論が展開するのかと思いきや、オランダでは元々宗教各派やコミュニティ別の有料会員制の図書室が図書館の前身であり、その歴史的経緯から違和感なく住民たちに受け入れられていったことが述べられており、逆に納得がいきました。
また、図書館が貸し出すことで作家に発生する損失を補償する権利である「公共貸与権」というものがあることを本書で初めて知りましたが、こちらには少数話者言語の保護という側面もあるということで、オランダに限らず、ルーツの異なる民族が隣り合って暮らすことの多いヨーロッパならではという感じがしました。
本書の中でも書かれていますが、著者はオランダだけではなく北部ヨーロッパの様々な国の図書館を訪れ、それらについて複数の本を著しています。そのせいもあって、本書の第8章は「21世紀の北部ヨーロッパ図書館」と題されており、北部ヨーロッパ全体の図書館界の動向・展望について述べています。オランダ図書館界もデンマークなどの図書館先進国に刺激を受けてムーブメントの一部となっている感があるので、これらの図書も併せて読むと、さらに北部ヨーロッパの素敵な図書館の世界を感じることができるかも知れませんね。
今回も良書をたくさんお譲りいただき、ありがとうございました!